A-5.妙沢不動図




フラッシュを用いた撮影のため顎の部分のシミが強調されますが、肉眼では殆ど目立ちません。


表具は古裂表具で、とても手間の掛かった修理が施されています。

  
右下の落款「妙沢老人印施」と左下の為書き「□侍者□□」

 



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サイズ 本紙  縦 1090o 横 402o  表具 縦 1790o 横 530o(軸端を除く)

絹本淡彩色、軸装、南北朝時代

鎌倉時代後期〜南北朝時代の臨済宗の僧 龍湫周澤(諱は妙沢澤1308〜1388))の描いた不動明王図で、一般に「妙澤不動」と呼ばれる品です。

周澤は自らを妙澤と名乗り、晩年の20年余りにわたり、一年のうち百日一日一枚の不動明王図を描くことを自らに課していたといわれます。
それらの不動明王図は霊験あらたかと評判を呼び、の在世中に木版が開版され版画が摺られたことが知られており、肉筆、版画を合わせると夥しい数が作られたと言われます。

ご案内の品は妙沢の落款の入った肉筆本で、墨書きで太く大胆な輪郭線を描き、火炎と羂索に朱、条帛(じょうはく=たすき掛けの布)、腰布、両腕のリボンに青緑、天地眼と牙に白を配した淡彩色のシンプル作風で、向かって右下に「妙澤老人印施」の落款、左下に「□侍者□」(□=判読できず)の為書きと思われる書き付けがあります。
尚、妙澤不動の肉筆本の落款(サイン)は「妙澤老人印施」の他に「妙澤老人筆施」、「妙澤老人所施」、「澤沢奉施」、「妙澤老人謹図」などが見られ、また弟子が大半を描き、妙澤が眼を描き入れた「妙澤点眼」とした落款も存在すると言われます。
今に伝わる妙澤様(様式)の作品は弟子の代筆、また後世の僧が書いた作品もあり、妙澤の真筆を正確に見分ける方法は困難ですが、最も真筆の信頼性が高いと思われる東京国立博物館本(賛文に年記あり)と比較をして、図像が似通っていること(他に丸顔で肥満した容姿の作や細面の作などあり)、右下に落款、左下に為書きのある共通点、また、修理銘(後述)から推測される制作年代から妙澤の真筆、もしくは妙沢が在世中に自らが関与した作品の可能性が高いものと考えます。

保存状態は燻煙で本紙全体が黒く変色し、一部にシミや汚れが付着しています。また、上部の余白を中心に絹本の部分的な欠損があり、裏からの補絹が見られます。
本紙の修理は裏から綿密な折伏せと補絹が入り、現状で目立った折れやシワは生じていません。
表具は改装をして半世紀以上が経過しているものと見られますが、とても良い状態を保っており、風帯の付け根付近に傷みが生じている以外に目立った傷みはありません。
表具の仕様は古裂の高野裂と金襴、八双と軸端は蓮華文の鍍金金具の組み合わせで、太巻き二重箱に納められています。

正確な伝来は不明ながら、表具裏に時代の異なる二種類の書き付けが貼られており、古い書き付けに「佛眼山 観音寺什物」とあり、時代の下るものに「奉表補不動尊三幅一對 天和三癸亥年 朧月仏成道日 阿闍梨 宥映」とあります。このことから天和三年(1683年)には既に修理の必要な状態にあったことが知れます。
また、桐箱の表には「不動明王 妙澤老人筆 観音寺什」、中に「三昧居主巖拝題 (巖翠の朱印)」の書き付けがあり、また、箱にニューヨークの著名な美術商Mathias Komor(1984年没)とクリスティーズのシールが貼られています。(Mathias Komorがクリスティーズに出品した品と思われます)

妙澤不動の肉筆本が民間に出ることはとても希です。お探しの方は是非ご検討願います。
尚、撮影はフラッシュを用いたためシミや粗が目立ち、図像も判然としませんが、肉眼ではより明確な印象です。可能であれば実物をご覧の上ご判断ください。


追記 肉筆本妙沢不動明王図の落款

妙澤老人筆施 東京国立博物館本、香川県 円通寺本(県重文)、香川県 観音寺本
妙澤老人印施 香川県 極楽寺本 
妙澤印施 岡山県 金峰寺本
妙沢老人奉施 京都市登録文化財
妙澤老人□施 神奈川県 平間寺本 ※□=判読できず
妙澤老人所施 町田市立国際版画美術館『版になった絵 絵になった版』収録 伝来・所蔵不明
妙澤老人 広島県 宝寿院本
妙澤老人謹画 広島県 観音寺本

参考文献 善通寺教学振興会紀要第3号 武田和昭氏著「妙澤不動について」、町田市立国際版画美術館『版になった絵 絵になった版』